東京都中央区京橋にある日本最大のフィルムアーカイブ「国立映画アーカイブ」をご存知ですか?
映画フィルムや映画関連資料を可能な限り収集し、その保存・研究・公開を通して映画文化の振興をはかることを目的とする施設で、映画の聖地・日本映画の宝とも言える場所です(個人的見解)。
高校卒業後、映画の勉強をしていた僕ですが、お恥ずかしながら最近まで存在を知りませんでした。
そんな中、個人的な歴代映画No.1である、黒澤明監督作品「羅生門」の展示イベントを開催すると聞き、初めて「国立映画アーカイブ」に行ってみました。
結論から言うと、「絶対に後世へと残しておくべき文化施設だ!」と強く実感。利用者も年齢層が高いのが気になりましたが、日本が誇る“日本映画”の歴史・隆盛期を知る上でも若い世代の人にもたくさん利用して欲しいな!
常設展「日本映画の歴史」も見応え抜群で、映画好きの方はぜひ一度は足を運んでみるべき施設ですよ。
国立映画アーカイブとは
日本で唯一の国立映画専門機関、国立映画アーカイブ(英語名称:National Film Archive of Japan)は、1952年に設置された国立近代美術館の映画事業を礎としています。
1970年の機能拡充による東京国立近代美術館フィルムセンター開館とその後の活動を経て、2018年、独立行政法人国立美術館の6番目の館として設立に至り、映画の保存・復元・研究・公開を通して映画文化の振興をはかる拠点となっています。
神奈川県相模原市のキャンプ淵野辺跡地には、国立映画アーカイブの相模原分館もあります。
国立映画アーカイブの施設概要
上映ホールや展示室、図書室が設置されていて一般利用が可能。
館内には上映ホールが2つあり、監督・俳優・製作国・ジャンル・時代など、さまざまなテーマにあわせた特集上映が行われています。
■B1【小ホール】
座席数:151、床面積:190㎡、映写機:Kinoton FP38E(35mm/16mm兼用2台)、NEC製NC3200S 2Kプロジェクター
■2階【長瀬記念ホール OZU】
座席数:310、床面積:306㎡、映写機:Kinoton FP75ES(70mm/35mm兼用2台)、Kinoton FP38E(16mm専用にカスタマイズしたもの2台)、NEC製NC3240S 4Kプロジェクター
■4階【図書室】
所蔵する4万8千冊以上の映画図書のうち、和・洋書の単行本、国内外の映画祭カタログ、また国内外の主要な映画雑誌も公開しており、閲覧室で読むことができます。複写サービスや、デジタル化した映画資料をタッチパネルモニターで全ページ閲覧できる「デジタル資料閲覧システム」も利用可能。
→図書室の詳細はこちら
■7階【展示室】
映画のポスター、写真から映画機材、映画人の遺品まで、映画関連資料を用いた展覧会を開催。常設展では当館の貴重な所蔵資料によって日本映画の豊かな歴史を紹介、企画展ではさまざまな切り口から映画文化を発信し、関連のトークイベントなども開催されています。
国立映画アーカイブの場所・アクセス
地下鉄はどこもかしこも走っているので、いろんな駅から“駅チカ”です。
特に最寄りを挙げるならば、東京メトロ銀座線「京橋駅」出口1、または都営地下鉄浅草線「宝町駅」出口A4。1分未満の利便性抜群です。
駐車場はないので公共交通機関か、近隣のコインパーキングを利用しましょう。
国立映画アーカイブの利用案内
■所在地
〒104-0031 東京都中央区京橋 3-7-6
■最寄り駅
・東京メトロ銀座線「京橋駅」出口1から昭和通り方向へ徒歩1分
・都営地下鉄浅草線「宝町駅」出口A4から中央通り方向へ徒歩1分
・東京メトロ有楽町線「銀座一丁目駅」出口7より徒歩5分
・JR「東京駅」八重洲南口より徒歩10分
■休館日
月曜日、上映準備・展示替期間、年末年始、館内整備期間
■観覧料・利用時間
【上映ホール】
<所蔵作品上映> 一般 520円/高校・大学生、65歳以上 310円/小・中学生 100円
<特別上映・共催上映・教育普及企画>企画によって異なります。
【展示室】
・開室時間 11:00am-6:30pm(入室は6:00pmまで)
※毎月末金曜日は11:00am-8:00pm(入室は7:30pmまで)
・観覧料一般250円/大学生130円
【図書室】
・開室時間 12:30pm-6:30pm(入室は6:00pmまで)
・休室日 土・日・月曜日、祝日、休館日、図書整理期間
国立映画アーカイブへ実際に行ってみた
個人的な歴代最高映画、それは“世界のクロサワ”こと黒澤明による1950年公開の日本映画、「羅生門」です。
そんな映画の展覧会が、公開70周年記念 映画「羅生門」展として、国立映画アーカイブで開催されていたので早速行ってきました。
映画などの上映は、地下1階の小ホールと、2階の長瀬記念ホール OZUですが、今回は観る予定なかったので7階展示室へ直行です。
出た!「七人の侍」!いきなりテンション上がります。
ここらへんの展示物は、常設展の一画なのかな?
ロビーでお金を払って、ここから展示室に入ります。
常設展「日本映画の歴史」の奥に企画展「羅生門展」のブースがあるので入場料を支払うのですが、なんと250円。250円で常設展と企画展の両方を見ることができます。
安すぎる…
日本映画の隆盛や歴史を知るのにそれは安すぎるよ…
と思ったけれど、国立の機関として敷居を低くして裾野を広げる方が、後世に語り継がれるのかなとも思ったり。
いずれにせよ、入場料の何倍以上もの価値があります。
必見です。
では、7階展示室を紹介します!
常設展「日本映画の歴史」の奥に企画展ブースがあるのですが、写真撮影禁止なので先にそちらをサクッと紹介。
7階:企画展「羅生門展」
めちゃくちゃ素晴らしかった。
当時を知らない僕としては、「羅生門を撮影している世界」に入り込めたようで興奮しっぱなし。
撮影は禁止なので写真を載せれないのが残念です…
図録も永久保存版級で、即買いしました。
何がすごいかと言うと…
映画自体が持つギラギラ感がハンパない。というのが総括的な意見なのですが…こんなのでは伝わらないと思いますね。
意訳すると、原作・脚本・演出・俳優・プロデュース・撮影・音楽、各分野のプロが秀逸な技術やアイディアを結集させて作り上げた映画で、日本映画界を世界に押し上げた最高傑作品です。
高校時代に初めて観たときの衝撃・興奮が思い出される「羅生門」展でした。
ただ、常設の「日本映画の歴史」は写真撮影OKですが、「羅生門」展は写真撮影NG。
そして常設展にあった黒澤明の羅生門関連品は、「羅生門」展に一部移されていたために、結果「羅生門関連展示物は写真を撮影できなかった」という…次回リベンジして撮影したいと思います!
7階:常設展「日本映画の歴史」
「日本映画の歴史」、スタートです。
この常設展は写真撮影OKです。
日本映画における制作会社の系譜が年表化されています。
これは非常にわかりやすい。
平日に行きましたが、あまり人もおらず、とても落ち着いて見ることができました。
1803年、三味線・太鼓などの鳴り物と説経浄瑠璃・義太夫節などの語り物が結びついた「写し絵(関西では錦影絵とも呼ばれていた)」に始まり、後年、日本映画独自の存在である「活動弁士」につながっていきます。
活動写真すなわち無声映画(サイレント映画)を上映中に、傍らでその内容を解説する専任の解説者。活動写真を弁ずるところから、活動写真弁士とも呼ばれていた。
日本の映画史としては、1896年末にエジソン社のキネトスコープが輸入され、動く映像が公開されたことに始まります。
その後は、「一スジ(筋)、二ヌケ(抜け)、三ドウサ(動作)」をモットーとした映画製作で大衆の支持を得ながら、阪東妻三郎、片岡千恵蔵、嵐寛寿郎、高木新平、月形龍之介、監督の衣笠貞之助、二川文太郎、井上金太郎、内田吐夢らを育て上げた、“日本映画の父”牧野省三を筆頭に、数多くの映画監督やスター俳優が登場していきます。
(左)マキノ雅弘、(右)阪東妻三郎
ちなみに“マキノ一族”には、息子であるマキノ雅弘監督や東映プロデューサーマキノ光雄氏のほか、孫には、俳優の長門裕之さん・津川雅彦さん(別名義:マキノ雅彦)、沖縄アクターズスクールを設立して安室奈美恵さんやSPEEDなどを輩出したマキノ正幸さんもいます。
全部説明していくと5万字以上のブログになりそうなので、どんどんハショりましょう!
写真をひたすら列挙!
高校生の頃は「オズヤス ジロウ」と思ってました…。
映画「東京物語」の撮影台本。
白地の表紙というのがまた良いですね!
なぜか…
溝口健二監督のデス・マスクが。
1956年8月24日に58歳の若さで亡くなられた際、美術監督の水谷浩さんによって作られたそうです。
58歳は若いな…。
映画会社の枠に縛られていた監督たちが垣根を越えて集まり、日本映画芸術の醇化向上を目指して1936年に設立された「日本映画監督協会」。
最年少20代の山中貞雄監督以外は皆30代という若者の集団だった。
初代理事長には村田実監督が就任、以降の理事長も溝口健二→小津安二郎→五所平之助→大島渚→深作欣二→山田洋次→崔洋一…重鎮ぞろいです。
途中には、毎時0分と30分に映写が始まるエンドレス16mm映写機もあります。
映像じゃなくて、この映写機に流れるフィルムを見ているだけで心地良い。
学校の授業で8mm映写機なら操作したことありますが、カタカタいいながらフィルムを送る映写機はなんとも言えない…。そっから自分がつないだフィルムが映像としてスクリーンに出てくるのも一種の感動です。
このノスタルジックな良さはデジタルにないですね。
そして…
やってきました“黒澤明”エリア!
黒澤天皇降臨です。
これヤバいです!
幻となった黒澤版「トラ・トラ・トラ」の撮影台本。決定稿。
垂涎モノ。
装丁もカッコいい。
「生きる」(1952年) 撮影時のスチル写真や撮影中のスナップ写真。
これは主演の志村喬さん所蔵のものらしく、撮影現場の写真を自らまとめたものだそう。
貴重〜な写真の数々!
一番最後の写真は、例のブランコかな!?
“世界のクロサワ”ですが、「羅生門」が僕にとっては歴代No.1映画。
京都光明寺横の雑木林で撮影されたこの映画。
現在も映画の面影が残っているそうです。
そんな「羅生門」は1950年8月26日公開の映画ですが、当時は他にどんな映画があったのかな…と何気なく見てたらありました、
イタリア・ネオリアリズムの名作、ヴィットリオ・デ・シーカ監督作品「自転車泥棒」。1950年9月8日公開。
「自転車泥棒」なんて歴史上の映画みたいな感覚がするから、それに並ぶ「羅生門」は…すごい!に尽きる。
ちなみに「自転車泥棒」は1950年のキネマ旬報外国語映画No.1。
「羅生門」はキネマ旬報日本映画5位という地味なものでした。
がしかし、本作がヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞を受賞したことで一躍有名に。
日本よりも海外で先に認められるというちょっと皮肉な結果に。
その後、アカデミー賞名誉賞、現在で言うところの長編外国語映画賞も受賞しています。
他にも常設展には、
日本における特撮やアニメーションの歴史も展示紹介されています。
4階:図書室
4階図書室には、4万8千冊を超える映画関連の図書・雑誌・映画祭カタログ・映画パンフレットなどを所蔵されています。
蔵書検索や利用案内については、公式サイトで確認して下さい。
※所蔵図書を用いての調査・研究が目的の方のみ利用可能です。
特に今はコロナの影響で利用時間が変わっていたり、事前予約が必要だったりします。
大きい荷物はロッカーに入れてから入室しましょう。
とてもとても静かな図書室。
館外への貸出はできないため、図書室内での閲覧となります。
国立映画アーカイブまとめ
当記事では、日本で唯一の国立映画専門機関である国立映画アーカイブについて書きました。
今回見た「羅生門展」の映画「羅生門」は、CGも微塵もない1950年前後の時期に、いかに“映画という非現実にリアリティをもたせるか”を追求した珠玉の映画作品。
映画界の最高作品とも言える「羅生門」の素晴らしさを公開から70年が経過した2020年に感じることができたのは、国立映画アーカイブがあったからこそなのは間違いない。
映画の力強さ、映画の持つ魅力、映画の歴史を後世まで伝える、なくしてはいけない文化施設なんだろうなと。
今の日本映画があるのは、過去の日本映画があるからで、新しい世代の人たちは歴史の上に立って次の世代を切り開いていくので、その礎を見てみるのも勉強になるし、そもそもが楽しいですよ。
“むかしの日本映画”ということで、来場者は高齢者の方が多いですが、若い年齢層の方もぜひ!
そして映画好きの方はぜひ一度足を運んでみて下さい。
僕もこれからも通いたいと思います!
[施設情報]国立映画アーカイブ
所在地 | 〒104-0031 東京都中央区京橋3-7-6(→Googleマップ) |
交 通 | 東京メトロ銀座線京橋駅1出口から徒歩1分、都営地下鉄浅草線宝町駅A4出口から徒歩1分、東京メトロ有楽町線銀座一丁目駅7出口から徒歩5分、JR東京駅八重洲南口から徒歩10分 |
時 間 | 11:00〜18:30(最終入場は18:00) |
休館日 | 月曜日、上映準備・展示替期間、年末年始、館内整備期間 |
URL | https://www.nfaj.go.jp/ |
国立映画アーカイブで開催の企画