2007年の開館以来、「さまざまな美術表現を紹介し、新たな視点を提起する美術館」を活動方針に掲げ、デザインや建築の展覧会を定期的に開催してきた国立新美術館。
この理念を体現する企画として、日本を代表するクリエイティブディレクター、佐藤可士和氏の展覧会「佐藤可士和展」が2021年2月3日(水)~5月10日(月)の期間で開催されていたので行って来ました。
SMAPやMr.Childrenのクリエイティブディレクターを担当したり、ユニクロや日清食品、セブン&アイ・ホールディングス(セブンイレブン)、楽天、くら寿司…etc. といった、名だたる有名企業のブランディング戦略を行ってきた佐藤可士和氏。
過去最大規模の個展となる本展では、佐藤氏自身がキュレーションする会場を構成し、約30年にわたる活動の軌跡が思う存分に紹介されています。
展示室内は写真撮影OKですし、出口にあるグッズショップだけの利用もOKです。
誰もが知っている商品やブランドが、インスタレーション展開されていて圧倒。個人的には、チケット代1,700円を軽く上回る価値ある体験ができ、大満足でした!
「佐藤可士和展」とは?
1990年代、株式会社博報堂でアートディレクターの仕事をスタートさせ斬新な広告プロジェクトを次々と手がけてきた佐藤可士和氏。
2000年に独立してからは、企業や幼稚園、病院、ミュージアム、エンターテインメント界、ファッション界、地域産業まで、多種多様な分野で革新的なブランド戦略を手がけています。
本展では、幼少期の作品を含め、これまでのアートワークが8つのセクションに分かれて展示。佐藤氏の歴史がギュッと詰まった空間に仕上がっています。
広告デザインで言えば、1964年東京オリンピックエンブレムの亀倉雄策さん、「プール冷えてます」(としまえん)の大貫卓也さん、「NO MUSIC, NO LIFE.」(タワーレコード)や「TOKYO HEART」(東京メトロCM)の箭内道彦さんと並ぶクリエイティブ四天王の佐藤可士和さん(超個人的な四天王です)。
そんな佐藤氏の展覧会ということで、ワクワクしながら国立新美術館へ行ってきました!
この展覧会に向けて、広い倉庫を借りて本会場同様に区切りシミュレーションしてきたというのだから期待のハードルが上がりまくりです。
ちなみに…“可士和”という名前は、「サムライのような強さと平和な心を持つ人間に」という願いを込めてロシア学者の祖父が命名したそうです。祖父からしてセンスあるな…。
「佐藤可士和展」体験レポート
最寄駅は東京メトロ千代田線乃木坂駅。
最寄りと言うより、直結なので雨でも何の問題もなく駅直通です。
展示会場の外に展示されている、「佐藤可士和展」のために特別制作された、Honda N 「N-BOX Chrome」。
佐藤氏は、2011年発売のホンダN-BOXシリーズの“N”のネーミングから、車体に付けるブランドロゴデザイン、グラフィック広告やテレビCMのディレクションまで一貫して手掛けてきています。
今回は平日月曜の15:00の回に行きました。
当日券も販売していますが、毎時ごとの入場なので売切れになると次の時間まで待つハメになります。
事前に予約をしていき、列が長かったものの10分ちょっとで入場できました。
会場内は8つのセクションに分かれており、それぞれのテーマに沿ったアート作品が展覧されています。
その中からいくつかのセクションを抜粋してご紹介。
1つめのセクションで本展のイントロダクションである“THE SPACE WITHIN”には、佐藤氏が小学生の頃に制作したコラージュ作品やなどが展示されています。
幼少期の頃からロゴや標識などのマークが好きだった…とは言え、センスある作品ですね!
2つ目のセクション“ADVERTISING AND BEYOND”には、テレビ、ラジオ、新聞、雑誌の4大メディアだけにとどまらず、CDジャケットや飲料のパッケージから、ショッピングバッグ、駅の連貼りポスター、ビルボード、街路を巡るラッピングバス、そして道端で通行人に配られるポケットティッシュ…etc. すべてのものをメディアと捉え、それらすべてを統一性のある明快なデザインで貫いた画期的なデザインワークが並びます。
SMAPのデザインワーク。
車の写真を大きく用いて機能の説明を重視していた当時の自動車広告の概念を覆し、子ども連れの家族が冒険する情景を絵本のように描いたポスター、新聞広告、テレビCMを展開したHONDAのミニバン「ステップワゴン」。
佐藤氏のデザインワークの中で一般知名度が一番高いのは、この「ユニクロ」ではないでしょうか。
ユニクロのブランディングは、「人々の目に触れるもの全てが、デザイン次第で情報伝達の有効なメディアとなる可能性を提示」という言葉を現実にしていますね。
Mr.Childrenのアルバム作品「シフクノオト」のアートワーク。
一見すると小学生の字みたいなデザインで「イケる!」と思ったその緻密な戦略と、GOサインを出させたプレゼン力がすごい…(上から目線に聞こえますが尊敬の念です汗)。
展覧会ならではの趣向として、数々のロゴを巨大な絵画やオブジェへと物質化し、壮大なインスタレーションに展開している“THE LOGO”セクション。
インステレーションとは?
オブジェや装置を設置舌場所や空間全体を作品として体験させる芸術のこと
このインスタレーション展覧はおもしろかった!佐藤氏の作品展示にもなるし、「映え」によるSNS展開になるし、企業の宣伝にもなるし、一石三鳥です!
中でも個人的に一番刺激的だったのは、
有名企業ロゴの“設計図”!
ユニクロは一昔前まで、ロードサイドにあるような田舎っぽいイメージがありましたが(個人的感想です)、ある時を境にガラッとイメージが変わったのを鮮明に覚えています。
ここまで計算して作ってるんだなぁ〜と感動です。
セブンイレブンのトータルブランディングも壮観です。
セブンイレブンのコンビニコーヒーやオリジナルブランド商品もすべて統一性をもたせています。
あれもこれも、みーんな佐藤氏デザイン。
みなとみらいにある、カップヌードルミュージアム横浜も佐藤氏による総合プロデュース。
余白を用いたシンプルなデザインは、どことなくユニクロのロゴに通じるものがあります。
八代目中村芝翫襲名披露公演の祝幕。
こういう筆やラインも“佐藤可士和デザイン”の特徴の1つです。
よく利用するくら寿司も、ある時を境にロゴが変わって「洗練されたなぁー」と思っていましたが、佐藤可士和氏デザインだというのを知ったのはごく最近。
名前ありきのデザインじゃなくて、「このデザインいいなぁー」と思ったらあの人だった…みたいなのがデザイナー冥利に尽きるんじゃないですかね。とか勝手に言ってみたりして…。
昭和のイメージが強く、最近では空室も目立つ昔ながらの団地を生まれ変わらせるプロジェクトも行っている佐藤氏。
むかし僕が住んでいた港南区港南台のUR団地も空室が多かった。
港南台の隣にある洋光台の街づくりも?佐藤氏がやっていましたね。
佐藤氏の空間プロデュースで一番好きなのが、東京都立川市にある「ふじようちえん」。
屋根の上がすべて遊び場になっていたり、テラスや砂場や廊下…などなど、こんな幼稚園に通ってたら楽しいだろうなーと思うような幼稚園に仕上がっています。設計者は手塚さんという建築家です。
本展のキービジュアルにもなっている幾何学的な構成の「LINES」と、
対照的に、紙にいっさい触れることなく動力と重力だけで描かれる「FLOW」シリーズも展示されています。
青の岩絵具をたっぷりと含ませた大筆の一振りから生じる作品です。
最後のセクションは、ユニクロのグラフィックTシャツブランド「UT」の国立新美術館バージョンを展開。
TシャツのデザインからUT STOREにおける購買体験まで、「UT」のプロジェクトそのものを一つの作品として提示する試みです。
出口にあるグッズを販売するショップ。
ここはチケットを持っていなくても利用可能です。
LINESと楽天パンダのコラボ商品。
この折りたたみのカーボンアンブレラ、めちゃくちゃ軽くしカッコいいから欲しかったけれど…15,000円超えだったので涙の撤退。クリアファイルを2枚買って帰りました。
「佐藤可士和展」口コミや評判
「佐藤可士和展」開催概要
■展覧会名
佐藤可士和展
■会場
国立新美術館 企画展示室 1E(東京都港区六本木7-22-2)→Googleマップ
・東京メトロ千代田線 乃木坂駅 青山霊園方面改札6出口(美術館直結)
・東京メトロ日比谷線 六本木駅 4a出口から徒歩約5分
・都営地下鉄大江戸線 六本木駅 7出口から徒歩約4分
■開催期間
2021年2月3日(水)〜5月10日(月) 10:00〜18:00
休館日:火曜 ※2月23日(火)、5月4日(火)は除く、2月24日(水)は休館
※入場は閉館の30分前まで
※開館時間は変更になる場合があります
■公式サイト
https://kashiwasato2020.com/
「佐藤可士和展」料金・チケット情報
■日時指定チケット
一般:1,700円、大学生:1,200円、高校生:800円、中学生以下・障がい者手帳をお持ちの方:無料
国立新美術館では「佐藤可士和展」会期中に限り、当日のみ有効のチケット販売を予定していますが、ご来館時に予定枚数が終了している場合があります。オンライン予約(日時指定券)を推奨します。
以下の方は開館中の好きな時間にご入場できますが、会場の混雑状況によっては、入場まで待つ場合があります。また今後の状況によって、日時指定券(無料)の予約をお願いする場合があるそうです。
・無料観覧券をお持ちの方
・中学生以下の方
・障害者手帳をご持参の方(付添の方1名含む)
「佐藤可士和展」まとめ
当記事では、国立新美術館で開催された「佐藤可士和展」の体験レポを紹介しました。
写真撮影OKなので、刺激的なデザインやアイディア、シンプルなのに斬新なアートワークを撮影しまくりな至福の時間でした。
最初のイントロセクションで小学校時代や博報堂入社当時の作品を持ってきて、次には誰もが知るSMAPの作品をデカデカと展覧する流れは完璧なのでは。
来場者は基本的に「佐藤可士和」という人物を知っている人なのでしょうが、最初の狭いセクションを抜けて、だだっ広い空間にSMAPやMr.Childrenや有名商業“作品”が鎮座する展開だけで、“初・佐藤可士和”層の人にも一気に刺さるんじゃないかと納得。
この展覧会に向けて、広い倉庫を借りて本会場同様に区切りシミュレーションしてきたというのはダテじゃない。
モノによっては「あれ、自分でもできるんじゃないか?」と思わせるようなシンプルなデザインがあったりします。
実際に展覧会前まで「楽天」のロゴは、凡庸すぎてあまり好きじゃなかった…
しかしながら、緻密に計算された直線と曲線から成る戦略。
削ぎ落としに削ぎ落としたシンプルさだからこそ発揮する、有象無象の枠を超えたオリジナリティ。
感動を覚えました。
個人的に何がすごいって、
日本を代表するような企業・グループからずっと仕事を受注し続けている(=結果を出し続けている)ことだと思います。
巨額のお金が動く、すなわちのしかかる責任感の中、クライアントを納得させ続けてきているということに尽きます。
僕ならどれだけプレッシャーか…。